フィストフル,ソート




「ぐあぁぁ………!」


どしゃっ。




勢いよく吹っ飛ばされた相手の体は、血を大量に噴き出して地に叩き付けられた。

「……っ!」
ケビンは、次の相手に後れをとるも、すぐに切り返して間合いをとる。


そして、下から斧で斬り上げてやった。
「がっ……は…」

相手は血みどろになりながらも、がしっ、とケビンの腕を掴んでくる。
咄嗟に振り払おうと、ケビンが斧を振り上げた時、頬に生温い感触が襲ってきた。


―――――ずるっ。


「………!」

ドシャ、と鈍い音がして、相手の顔が素早く視界から消える。
次の瞬間には、もう相手は息絶えて、ケビンの馬の下に転がっていた。







―――いつになったら終わるのだろう。


いつになったらこの手を汚さずに済むのだろう。


いつになったら、彼等の事を………











†・・・†・・・†



「お疲れさん」


「…………」
ケビンが部屋に戻ると、オスカーが待っていた。
此方を向いたその顔は、いつもと変わらぬ穏やかな顔で。

「どうしたの? 最近、表情が暗いままで」

「………最近…」
「最近?」

「人を……斬る度に考えるんだ」
ケビンは、その本音がいつもの自分らしくない事も、よく解かっていた。

「……何を?」

「今日も……敵の兵を斬った。 そうしたら…その一人が、俺の頬に、触れてきた」
「……血の跡が、うっすら残ってるね」
そう言って、オスカーはケビンの顔を覗き込んだ。

「そいつは…、死に際になっても、必死に俺の事を憎んでいるかの様に、何かを目で訴えていたんだ」
「…………」
「まるで、“お前も一緒に死ねばいい”……そう言ってきているかの様に」
そう言いだす度に、あの時触れられてしまった個所が疼く。


「……今までは、ここまで感情入りする事もなかったのに…この頃は、ずっと可笑しい気がして」
「………そうだったのか…」

「……この頃じゃ、戦に出るのが恐ろしくなってきているのが…よく、分かるんだ」
そう呟いて、出して見せた掌は、カタカタと震えていた。
「…可笑しいだろ? 笑っても、…構わん」

「…別に、笑いはしないよ」

「ふん……」

「でも……、それは、“敵”であるから? それとも……ただ死にたくなかっただけなのかな?」
「…俺には、解からない」
「それは…その“相手”にしか、解からない事」

……そう。 鷺の民でも無い限りは。


「……それは君の、いや君自身が、成長してきているのかも…しれない」
「……どういう事だ?」
「考え方が……相手に対する、“思い”が変わってきている…んじゃないかな」
「………そうなのかも…しれんな」
ケビンは、ううむと考え込む。


「人は……“誰か”に味方した時から、“誰か”の敵となる……恨まれる理由が、出来るから」

「………」



「そんな事…最初から、解かっていた筈なのにね」






どれだけ、道を歩んできても。

振り返ってみると、結構見落としてきているものは、幾つもあって。

その一つ一つが、かけがえのない、思いで構築されてきていたのならば。



きっと……“忘れていた”だけじゃ済まされない。









「君は……もっと、強くなれるよ、ケビン」

「…どうしてそんな事が言える」

「…今の心持を、解決出来たのならばね」

「………」

「大丈夫、まだ時間はあるよ」

「……お前に言われると、この上無く不思議だ」

「そう?」

「お前は……まるで、人の未来を予知しているみたいで」

「変な事言わないでくれよ…」
オスカーは苦笑する。



「……でも、有難うな」

「どういたしまして」










(………お前は本当に、不思議な存在だ)





End

シリアスモノですね……これも。
いきなり流血がありましたが、一応注意はしておきましたので……。
ケビンにとって、オスカーは不思議な存在であるというのもある様な気がしてならない水です(爆。



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